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思惑絡み合う“会計基準戦争”--日本はなぜIFRSを導入せざるを得なかったのか - (page 2)

斎藤和宣(ディーバ)

2009-09-09 08:00

 (個人投資家も含めた)投資家の側から見れば、自国だけでの資産運用から、新興国などの海外の金融市場での投資活動を行うだけでなく、日本で投資活動を行う海外の投資家が多いことも事実である。そうなれば、投資判断を行う際の基礎情報は同じルールで作成されていることが望ましいのは当然のことと思われる。

 国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS、「国際会計基準」とも呼ばれる)との“コンバージェンス(収斂)”や“アドプション(適用)”の話題で、世界共通の会計基準に関してここ数年で非常に注目されてきたのはご存知の通りだ。しかし、実際には、もっと前から国際的な共通基準を持とうとする動きがあったのである。

 もともとの国際会計基準委員会が設定する国際会計基準(International Accounting Standards:IAS)の存在や、それに対する各国証券市場の監督組織(日本であれば金融庁)で構成される証券監督者国際機構(IOSCO)の関与などがある。その後の国際的に統一化された基準を作ろうとする継続的な動き、米国の資本市場への影響力が増すことに対抗する欧州連合(EU)の動き、米国基準・日本基準のコンバージェンスと、拡大するIFRS採用地域、など一連の動きがつながっている。

 日本では会計ビッグバンの後も、リース会計基準、棚卸し資産の評価など、数多くの新しい会計基準を設定してきた。理想的と思われる会計基準の統合化の背景には、主要経済国の、金融市場を中心とする経済活動の主導権をいかに自国(自経済圏)が獲得するかの思惑が見えてくるのである。常に振り回されるだけで、アクションが後手に回る日本の動きがもどかしいのは、誰もが感じるところだろうと思う。

 IFRSで会計基準が統一されようとしている現在までの動きについては、日本公認会計士協会のIFRSに関するサイトに、より簡潔に分かりやすく掲載されているため、目を通されることをお勧めする。

内部統制は本当に役立ったのか

 近年の会計において、一連の会計基準統合の流れ、あるいは金融市場間の競争と関連して影響が大きかった仕組みの変更には、「内部統制報告制度」と「四半期報告制度」があるのは皆さんご存知の通りである。

 内部統制報告制度は、米国でのエンロン事件をきっかけとするSOX法の適用と合わせ、日本国内でも有価証券報告書での虚偽記載や企業活動における不正事件を背景に導入されることになった。そもそも米国での会計士の加担した事件を理由にして、内部統制の整備・監査という会計士のための仕事を作り出したことは、非常に皮肉なものである。

 内部統制報告制度は2009年3月期決算が適用初年度を向かえ、多くの企業で多額の費用と大量の工数を費やした結果が出てきている。ただし、業務の効率性や有効性といった視点が弱まってしまい、過度な正確性と不正防止を目的とした対応が多く、結果として内部統制が企業価値の向上に役立っていない企業も多いのではないかと思われる。あるいは、内部統制の効果を口にしている企業でも、その実は費用に見合わない効果しか見出せていないにも関わらず、そう評価しなければならない状況に置かれてしまっているのではないかと、危惧される。

 また、そもそも、内部統制は経営者が関与する組織ぐるみの不正には大きな効果が発揮できないとされていながらも、内部統制整備・運用に多くのコストをかける一方で、世の中の不正などのうち、世間を騒がす事件は、たいてい経営層やそれに近い立場の社員が関わっているという残念な結果がある。この点は、もっと考え直しても良い点かもしれない。

 四半期報告制度も2008年4月以降始まった制度で、2009年で丸1年のサイクルが回ったことになる。投資者保護を目的とする「金融商品取引法」により定められたものである。もともと、証券取引所の適時開示の規則のなかで四半期での決算開示は行われていたが、法制化されるに伴い、報告書として決算日後45日以内に提出しなければならない点と、監査人によるレビューを受けなければならないという点で、経理、開示に関わる人々にとっては負荷が増したと感じている。

 四半期開示と四半期報告書の制度も海外市場と比較して、日本市場の魅力を落とさないため(魅力を増すよりも、むしろ“守り”に近い)にも取られた手段であり、ここにおいても海外市場との競争関係を見出すことができる。

 以上のように、会計基準、開示制度をめぐる日本における変遷は、グローバルでの各国(地域)間での主導権争いや市場競争から作り出された一つの側面だということがよく現れている。

筆者紹介

斎藤和宣(SAITO Kazunobu)

株式会社ディーバビジネスソリューションユニット第2クループ長。公認会計士。1968年生まれ。1992年慶應義塾大学経済学部卒。青山監査法人、プライスウォーターハウスコンサルタント(現IBMビジネスコンサルティングサービス)を経て、2002年ディーバへ入社。大企業の連結経営会計にかかわるコンサルティングや、会計システム導入のプロジェクトマネジメントを多数手がけ、現職にいたる。

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