今回の「三国大洋のスクラップブック」は、米国時間6月18日に発表されたマイクロソフトのタブレット端末「Surface」を取り上げたい。
Surfaceに関するニュースのフォローアップ記事や考察を記したエッセイのなかから、気になった事柄をいくつか抜き書きの形で紹介していく。
発表イベントの様子やマイクロソフト幹部らの発言、発表された製品の中味、またその影響等については、すでにさまざまな媒体で報じられているが、まだ読んでいないという方がいれば、下記のCNET Japanの記事を参照いただきたい。
- マイクロソフト、「Surface」タブレットを発表
- 自社製タブレット「Surface」を発表したMS--その狙いと影響
- MSのタブレット「Surface」の第一印象--便利な機能と細かな工夫の数々を見る
マイクロソフトとPCメーカーとの「思惑の食い違い」を伝えたNYT
New York Times(NYT)は6月24日付の記事「ハードウェアに関する過去の過ちを正そうとするマイクロソフト」の冒頭で、2年ほど前のエピソードを紹介している。マイクロソフトの幹部らは、アップルが初代iPadの開発にあたってオーストラリアのとある鉱山から産出される高品質のアルミニウムを大量に買い付けたという話を業界筋から聞き、同社のタブレットにかける決意のほどを知って「たいそう驚かされた」("stunned")という(註1、2)。
ビル・ゲイツ氏は10年も前から「タブレットPC」という言葉を口にしていた。そのマイクロソフトが、アップルの本気度に感づきながらも手を打たずにいるはずがない。では、どうして丸2年もたって、それもPC分野の大手パートナー(HPやデル、レノボ、エイサーなど)との利害相反のリスクを覚悟しなければならない「自社ブランド製品の投入」に踏み切らざるを得なかったのか。
この点について、NYTでは次のような事情を述べている。
iPad登場以前から、いずれはキーボードとマウスで操作するパソコンが、タッチ画面操作のタブレットにとって代わられると気付いていたマイクロソフト幹部らは、アップルの動きを知り、世界最大のWindows PCメーカーであるHPに話を持ちかけ、対抗製品(新たなタブレットコンピュータ)の開発に急きょ乗り出した。
その成果は、スティーブ・バルマーCEOが2010年1月のCES基調講演で披露したプロトタイプとして結実したものの、しかし実際に市販された製品「HP Slate 500」は、プロトタイプよりも劣ったものになってしまった。「これでイケる」と思って買い付けた部品が実はパワー不足であることがわかり、製品の外見も分厚くなり、搭載されたインテル製プロセッサは発熱しがちで、しかもタッチ操作と画面上の反応に時間的なズレができてしまった……。あるHP関係者は「クルマを運転していて、ハンドルをきっても車体が曲がらないようなもの」とコメントしている。
「これではiPadに対して勝ち目はない」と悟ったマイクロソフトでは、他のハードウェアメーカーのなかに活路を求めた。iPadに対抗できるようなハードウェアをつくってくれるメーカーはないものか——そう考えて複数のPCメーカーと話を進めてみたものの、製品の設計や価格などで折り合いが付かなかった。
そしてついに、ハードウェアメーカー各社はマイクロソフトの信頼("faith")を失ってしまった——NYTimesは元マイクロソフト幹部のそんなコメントを紹介している。(次ページ「HPもマイクロソフトに腹を立てる」)
註1:NYTの記事
Around the time the iPad came out more than two years ago, Microsoft executives got an eye-opening jolt about how far Apple would go to gain an edge for its products.
Microsoft learned through industry sources that Apple had bought large quantities of high-quality aluminum from a mine in Australia to create the distinctive cases for the iPad, according to a former Microsoft employee involved in the discussions, who did not wish to be named talking about internal matters.
The executives were stunned by how deeply Apple was willing to reach into the global supply chain to secure innovative materials for the iPad and, once it did, to corner the market on those supplies. Microsoft's executives worried that Windows PC makers were not making the same kinds of bets, the former employee said.
With Tablet, Microsoft Takes Aim at Hardware Missteps
この話の出所は元マイクロソフト社員ということだが、金看板を掲げて商売するNYTの立ち場を考えれば、実際に裏を取ったということだろう。Surfaceの筐体がマグネシウムになった理由が、このアップルの買い占めと関係あるかどうかは不明。
註2:アルミニウム原料を「ひと山」まるごと買い占めたアップル
素材や部品、製造装置、それに輸送など、サプライチェーンのなかでボトルネックとなりそうな特定の箇所を見つけ出し、そこをいっきに押さえることで、競合他社に対する戦略的優位をつくりだすというやり方は、アップルの常套手段ともいえる。古くはiPodに搭載したフラッシュメモリに始まり、iPhoneのタッチスクリーン、iPadの製造につかうドリル、アルミ筐体に微かに穴を開ける特殊な加工装置など、それこそ枚挙にいとまがない。