何はともあれ、家族のもとへ
ベトナム人にとっての旧正月は、「家族とともに過ごすもの」です。海外との貿易を行っているビジネスパーソンでさえ、仕事を放って田舎に帰るということが珍しくありません。ベトナムで過ごすと「家族を大切に思う気持ち」を折に触れ感じますが、旧正月こそそれを一番感じる時期です。最近日本では、「お盆に帰省する」という習慣が以前ほどではなくなったように感じますが、それでも「正月に帰省する」感覚は日本人にも良く理解できます。ベトナムでは「お盆」に相当する休みがないため、日本人にとってみれば「『盆と正月が一緒に来た』休み」になる感覚でしょう。
さて、ベトナムでは都市人口率が約30%ですが、当然、生まれも育ちも同じ都市というベトナム人ばかりではありません。工場での出稼ぎ、会社設立のため、大学進学といった理由で自分の故郷を別に持つベトナム人も多くいます。そのため、ベトナム人にとっての1月の大きな課題は、「できることならばテトの前後も休暇を取り、いかに安く帰省するか」となります。
ベトナムの法制度上、会社の旧正月は実施の1カ月前に決めて社内周知を行う必要がありますが、実態としては、テトの2~3週間ほど前に発表されるベトナム政府機関の休みに合わせて民間企業も休みを設定する傾向があります。そのため、政府の休みが発表されるとすぐに、社員からの休暇申請が殺到することになります。これは、「1日でも長く故郷で過ごしたい」という気持ちと、「移動手段の確保」という現実的な問題が複雑に絡み合っている背景があるためです。
弊社の女性スタッフに、150kmほど離れた実家に125ccのバイクで1カ月に1度は週末に帰省するツワモノがいます。しかし、彼女のようなケースは多くないにしても、必然的に「民族大移動」の時期になるテト前後は、文字通りの「椅子取りゲーム」が待っています。「限られている席を早く押さえないと帰省できないかもしれない」という強迫観念と、「少しでも安いチケットを手に入れたい」と焦る気持ちから、早め早めの準備をさせるのでしょう。
なお、日本でも「繁忙期価格」や「閑散期価格」があるように、この時期のベトナムの運賃は軒並み跳ね上がります(運賃だけではなくその他の価格も上がります……)。当局も監視を行っており、通常の1.5倍程度までは認めているようです。

ベトナムでは、黄色の菊の花は「長生き・幸福・幸運」のシンボル、小さいミカンの木は「繁盛・繁栄」のシンボル。これらを縁起物として、テトの間、家庭や会社の玄関に飾る。