研究開発はシーズからニーズ
安全、安心な街づくりだけではない。社会ソリューションの幅は、収集可能なデータの増加によって広がっている。例えば、地下数千メートルにある天然ガスのシェールガスの採掘へのIT活用だ。地中のデータを収集、分析、加工し、採掘場所を特定できれば、「おそらくここ」とあたりをつけて掘る作業とは、比較にならないほど効率が高くなる。
そのデータはエネルギー関連のいろんな企業にも売れる。顧客が持つデータを分析する中から、新しい価値を創造できるからだ。つまり、社会ソリューションは、新しい技術を使って製品を開発することではない。国や団体、企業のパートナーとなり、社会の課題を一緒に解決することにある。
遠藤信博社長は「今年はMany to Oneになる」と語り、複数の顧客のニーズから1つの社会ソリューションを創り出すことに全力を注ぐ考えを明かす。どのソリューションを開発するのかは顧客のニーズにあるということ。なので、要求の聞き取りや市場の動向をしっかりウオッチする。
その一環から研究開発は、シーズからニーズへと180度転換させたという。これまでに培ってきた“とんがった”技術も磨き上げる。通信や認識、バイオメトリクス照合、予知・予兆分析などだ。その一方、NECにない技術は他社の優れたものを採り入れる。オープン・イノベーションの考えだ。そして、遠藤社長が就任時から訴えているソリューションを横展開する「One to Many」を実現させていくことになる。

- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。