連載第2回から第5回に掛けてデジタルテクノロジによるワークスタイル変革について論じてきたが、今回から従業員個人ではなく企業全体に範囲を拡大したバリューシフトについて論じる。
今や企業のIT戦略の主人公はクラウドからIoTまたはIoE(Internet of Everything:シスコシステムズが提唱するIoTの上位概念、図1参照)に移り変わりつつあるが、IoT/IoEによるデジタルバリューシフトとはどんなものであろうか。
ビッグデータからは「当たり前のこと」しか分からない
IoT/IoEに関するテクノロジは、さまざまなエンドポイントで無数のデータが生成されるという観点から、ビッグデータとセットで語られることが多い。
ガートナーが毎年発表するHype CycleでIoT(モノのインターネット)とビッグデータを探してみると、2014年8月の時点でIoTは「過度な期待」のまさに最頂点で、ビッグデータは幻滅期に突入している。おそらく今年発表されるレポートでは、双方とももう少し幻滅度が進行しているであろう。
ビッグデータを解析すればビジネスに洞察を呼び込めるというのが当初の期待感であったが、実際にその効果を得るのは言うほど簡単ではない。
ビッグデータという単語が出始めてから「なんとなく」集めた膨大なデータを持て余している企業は多く、仮に解析したとしてもごく当たり前の結果や予想の範囲内に留まる情報にしかならなかった、という事例も耳にする。このようなもったいないビッグデータ活用の要因は何であろうか。
それは、一言で言えば「優良なデータソースに出会っていないから」であると筆者は考えている。データ量の大小ではなく、筋の良さが重要なのだ。
さらにくだけた表現をするならば、手元のデータを意味のある「情報」に昇華させる”センス”を持っているかどうかが、企業におけるデータ活用の正否を左右すると主張したい。独自でユニークな視点が必要という話ではなく、自社の経営課題に対して本質的な答えを導出できそうか、という点を深く考察しなければならないのだ。