データ活用の”センス”とは何か
一般的に”センス”と言えばスポーツにおける突出した勘や能力(例:打撃センス)や、優れた美的感覚(例:ファッションセンス)をイメージすると推察するが、本稿で述べる”センス”とは”察する能力”と定義している。
この”察する能力”は、課題に対する本質的なアプローチと、デジタルテクノロジを効果的に掛け合わせることで生み出される企業能力である。この能力があれば、企業はロジックの積み立てからは得られない貴重な洞察を得ることができる。
少し抽象的な表現が続いたので例を挙げよう。身近な例として、野球における野手のパフォーマンスを考察するとしよう。一般的なところでは打率や本塁打の数といった指標が思い浮かぶが、米メジャーリーグにおいてはRC(Runs Created)という総合的な個人評価指標が用いられている。
詳しい算出方法は割愛するが、さまざまなプレースタイルの選手を「勝利や得点にどのくらい貢献したか」という物差しで平等に評価することを可能にしており、試合に勝つためにどうすれば良いかという本質的なアプローチの上に成り立っている。
米メジャーリーグにおいては1球1球全てが記録された巨大なデータソースがあるが、この本質的なアプローチとデータを処理する技術が、この単なるデータの集まりを筋の良い情報に変換することを可能にしているのだ。
これを、一般的な「日本の営業職」に置き換えるとどうなるだろうか。多くの日本企業で、おそらく営業職の評価は売り上げの数字が大半を占めるでだろう。しかしこれは、先ほどの野球の例で言えばヒットやホームランの数でしか評価しないということと同義であり、フェアな評価からはやや遠いともいえる。
営業職には人脈の形成や新規案件機会の開拓など、のちの利益につながる行動は他にもたくさんある。そして企業内にはその営業の行動を示すさまざまなデータ(顧客訪問の回数やメールの履歴など)があるにも関わらず、情報として使えていないのだ。
これは営業活動に限った話ではなく、マーケティング活動や経営層の意思決定の場面においても、本来活用できるデータが埋没してしまっていることが多い。
では、企業のデータ活用を飛躍的に伸ばそうと考えた場合、”センス”の良いデータサイエンティストを探してきて雇用すれば事足りるだろうか。もちろん、そのような人材がいれば積極的に確保したほうがよい。が、そのようなデータサイエンティストは簡単には見つからないと覚悟して欲しい。
しかし、それよりももっと良い打ち手が残されている。それが、IoT/IoEによる「バリューシフト」だ。