人工知能(AI)の活用に関心が一段と高まっている。新しいビジネスを創出するツールとしての期待といえる。膨大なデータを収集し、最適に導き出すIBMのWatsonはその1つだろう。コールセンターや医療、金融などへと、応用範囲を着実に広げている。クラウドや分析などのテクノロジが駆使されている。
質問応答システムWatsonの可能性
Watsonが注目を集めたのは、2011年2月に放映されたクイズ番組の勝者になったことだ。自然言語を理解するWatsonは、さまざまな文献などのテキスト情報から学習し、知識を蓄積する。テキスト化された専門家らの知見も取り込む。
つまり、大量の情報から関連するデータを抽出するので、テキストデータがなければ、威力を発揮しないということだ。学習するために必要なビッグデータが前提になるので、IBMはWatsonを認識、認知するなどの意味がある「コグニティブシステム」と呼んでいる。AIとは言わない。
現在、最も活用が進んでいるのが医療分野である。特にがん治療で、米国の6つの医療機関とタイの1つの医療機関がWatsonを利用している。がん治療のガイドラインや医学文献の抄録、図書館の公開データなどから「この症状は、こんな診断になる」「この治療をしたらどうか」と、診断や治療に関する医師の判断を支援する。
診断の情報が不足していたら、「この検査をしたらどうか」と推奨する。分かりやすくいえば、文献を頼りに病名や最適な医薬品などの答えを出すものといえる。
日本IBM東京基礎研究所でナレッジインフラストラクチャ担当の武田浩一氏は「情報源から見当たるものを探し出し、選択肢を提供するもの」と説明する。例えば、胃がんのステージ2なら、「どんな抗がん剤なら効果があるか」「こんな検査をしたらどうか」と、医師に気づいてもらう。医師がこの方法がいいと判断したら、その情報が登録されて、次回から活用できるようになる。精度をどんどん上げていくわけだ。
IBMは4月、Watsonの医療分野への適用を強化するために専任の事業部門を立ち上げた。質と効果を高める専用クラウドの構築も進める。電子カルテなどのデータは医療機関内のシステムに、文献はパブリッククラウドにあるので、ハイブリッドクラウド環境を整備し、Watsonを効果的に使う。
目下のところ、がん治療が先行するが、健康データを蓄積すれば、生活習慣病への適用も可能になるという。武田氏によると、日本語のサポートも開発を進めており、「個人的な意見だが、年内にも実現させたい」と語る。