ICT分野におけるタイとベトナムの方向性の違い
タイにおける情報通信業をベトナムと比較した場合、私自身いまだ全体を把握するまでには至っていません。ただ、いろいろと見聞きした中では、タイにおけるICTの位置付けは、「いかにして利活用して経済などへの貢献を目指すのか」という面に重点が置かれ始めているように感じています。
その例としては、現在、「デジタルエコノミー」をキーワードに検討が行われている、ICTの利活用に関する国家戦略とその予算措置についての議論です。「デジタルエコノミー」という概念自体は新しいものではありませんが、タイにおいては、王族が牽引するプロジェクトをはじめとする国家プロジェクトとして実際に動き始めようとしているところです。これは、上記のとおり、「タイとしていかにして生産性を上げていくか。高付加価値の産業を目指すのか」という観点からの取り組みでもあるようです。
一方ベトナムにおいても、単純な労働集約型の産業構造に甘んじているわけではなく、2020年の工業国化を目指して国の産業構造の変革を目指しているところです。その一例として、2025年までの自動車産業発展戦略と関係諸施策を上げることができます。ICT産業についても、確かにベトナムでは現在オフショア開発が大変盛んになっていますが、これに加え、本年1月の記事にも記載したとおり、社会インフラとしてのICT技術の活用を図ろうとしており、これは一つの新しい動きとみてよいと思います。

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ただ、タイのICT化と比較した場合には、「社会インフラとしてのICTを充実させることを当面の目標とし、将来的にはこのインフラの上に利便性の高いシステムを構築する」という、より「ハード面の整備」の考え方が基本にあるように感じます。
経済の観点で言い換えれば、タイの場合にはいわゆる「ルイスの転換点」に達しつつある段階でのICTの活用ともとらえることができるため、相対的により高度なICTの利用が視野に入るものの、ベトナムの場合には、まだまだ社会システムの基盤インフラとしてこれらを整備していこうとする段階にあることに、大きな違いがあります。もちろん、このような見方は、域内での相対論でもあるため、単純な二元論では議論が進まないかもしれません。しかし、少なくとも東南アジアへの進出や投資を検討する際には、タイとベトナムを同列に扱うことは避けた方が良いように感じています。