インフラやソフトウェアが容易に手に入るクラウドは、これまでの企業のITコンセプトに大きな衝撃を与えた。オンプレミスの業務ソフトウェアベンダーはどこもクラウドモデルの確立を急ぐが、SAPは製品の提供に加えて、販売でもSaaSスタイルの導入を進めている。
取り組みを主導する新事業部SAP Digitalでバイスプレジデントを務めるGaurav Jaiswal氏は、「Amazonのショッピング体験をエンタープライズソフトウェアでも」と野心を語る。
SAP DigitalバイスプレジデントのGaurav Jaiswal氏
SAP Digitalは20014年秋に正式に立ち上がった新事業部だ。きっかけは、就任以来BtoBtoC戦略を進めるSAPの最高経営責任者(CEO)、Bill McDermott氏の問題意識からだという。McDermott氏は当時最高マーケティング責任者(CMO)を務めていたJonathan Becher氏に、エンドユーザーにリーチを拡大するにはどうすればいいかという課題を出した。Becher氏はJaiswal氏ら数人を集めてビジネスプランを練った。数回のボードメンバーへのプレゼンを経て生まれたのが、SAP Digitalだ。現在、Becher氏はSAP初の最高デジタル責任者(CDO)としてSAP Digitalを率いる。
SAPの通常のセールスサイクルは、営業担当がCIOなどの決定権を握る人に話し購入が決定した後、コンサルティングが入り、実装が始まる。エンドユーザーが利用できるようになるのに1年を要することも珍しくない。その後もトレーニングが入ることもある。「このモデルをひっくり返したかった」とJaiswal氏は言う。
そこで、これまでSAPがリーチできなかったビジネスユーザーが直接購入できるようにすることを考えた。そのビジョンのもとで、SAP及びSAPのパートナーの製品を、人による介入を最小限に抑えた完全なセルフサービス形式で購入できるデジタルコマースインフラを構築した。
「簡単にいうなら、Amazonで物やサービスを購入するのと同じ体験をエンタープライズソフトウェアにもたらす」とJaiswal氏は例える。そのショーケースとも言えるのが、2015年のSAPPHIRE Nowでオープンを発表した「SAP Store」(sapstore.com)だ。名称から推測できるように、SAP製品をクレジットカードで購入できるデジタルストアだ。
業務ソフトウェアのアプリストア「SAP Store」。現在約50の製品をクレジットカードで購入できる
現在、(1)CRM、アナリティクスなどのポイントソリューション、(2)SAP Solution Manager向けのFocused Solutions(すぐに利用開始できる特定の用途向けソリューション)やSAP Lumira向けのソリューションなど、SAP及びパートナーが提供する拡張機能、(3)コンテンツ/データをベースとした製品、(4)SAPのオンラインコース「OpenSAP」の延長のためのリアクティベーションキー、の主に4つの分野があり、合計で50近くの製品をそろえる。パートナーからは約20点ある。
(3)は例えば、匿名化してアグリゲートされた無線利用データから洞察を得られる「SAP Digital Consumer Insight」がある。何時に大学生がどのあたりにいるのかなどの情報を得ることで、最も効率の良いフードトラックの配置場所を割り出したり、マーケティングのターゲティングに利用できるという。