『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』以降、映画業界にはこのような「POV(Point of View)/主観視点」と呼ばれる、全編を登場人物の目線で物語を語る演出が、ひとつの演出の方法論として確立されてゆく。ホラー映画『REC/レック』(2007)、パニック映画『クローバーフィールド -HAKAISHA-』(2008) は、その代表的なもの。あるガジェットの普及が、全く新しいストーリーテリングの方法を生み出し、ひとつのジャンルとして定着させたケースである。
さらに、安価なドローンの登場は、手軽・安価な空撮を実現した。街や大自然の空撮は作品に大作感を与え、観客に視覚的な開放感を与える。ただ、それまで空撮を行うためにはヘリコプターをチャーターする必要があり、撮影予算を大きく圧迫していた。
ところが昨今では、低予算映画でもドローンで簡単に空撮映像が撮れるばかりか、「1000人の大群衆の頭上1メートル付近を高速で縦横無尽に移動する」といった、ヘリコプターやクレーンでは実現不可能なショットも撮影可能だ。ドローンの登場は、映像制作者にとって演出の「手数」をいくつも増やしたのだ。
演出面の話をするなら、現実の撮影では非常に難易度の高い「長回し」撮影が、技術革新のおかげで容易に実現できるようになった点にも言及しておきたい。
「長回し」とは、ひとつのシーンを1台のカメラで、カットを変えずに(=別アングルのショットを挟むことなく)、1カットで長時間撮影し続けること。数分にわたる長回しシーンには役者の緊張感がにじみ出るほか、映像から現実感と臨場感がみなぎる効果がある。
ただ、「後ろで爆発が起こっている最中に手前で役者が長い芝居をする」ような込み入った長回しシーンの場合、爆発のやり直しがきかないため、NGなしの1発撮りが求められる。しかし技術進化によって、実際にはカットを割っていても、長回しのように“見える”ショットを作り上げられるようになったのだ。
2006年のイギリス・アメリカ映画『トゥモロー・ワールド』では、激しい爆発や着弾を伴う戦闘シーンなどで「長回し」が多用され、独特の緊張感が画面にみなぎっている。しかし、実際にはいくつかのバラバラに撮ったシーンをつなげたものだ。本当に1カットで撮っているわけではない。
もちろん、どの部分でつないだのかはまったくわからない。公開当時、初見の映画ファンは「あれ、どうやって撮ってるんだ……」と絶句した。これも、技術進化なくしてはできなかった演出、出せなかった緊張感であろう。技術が、物語の説得力を増幅したのだ。