米SaaSベンダーとの協業を推進
クラウドビジネスを7年超経験した青野社長は「結構、売れる」と、kintoneの国際競争力を確信した。Dropboxなど米SaaSベンダーとの付き合いも増えているという。その中には、「有力なチャットツールや中国のびっくりするよう企業からも声が掛かる」(青野社長)。
米国の有力SaaSとkintoneを連携させることは、サイボウズの強みになる。例えば、米国市場で競合に勝てなくても、彼らが日本進出しても、「必ず勝てる」との読みがある。一方の米SaaSベンダーが日本市場に進出する際、提携が売りにもなる。結果、国内外でサイボウズの評価が高まるとの計算もある。その1つは、米IT調査会社のGartnerが今年初めに発表したクラウド型業務アプリ開発環境のマジッククラドンドの評価対象16社に入ったこと。Salesforce.com、Google、ZOHOなどが活躍する領域である。
一方で、顕在化し始めた問題がある。現地のデータセンターを使いたいというニーズだ。一部のユーザーが利用する程度なら、日本のデータセンターでも大きな問題にならなかったが、全社利用となると、米ユーザーは「顧客などの基幹データを米国内に置きたい」となる。EU(欧州連合)の個人情報保護の枠組みを規定した一般データ保護規則(GDPR)への対応もいずれ求められるだろう。
こうした環境変化があり、サイボウズは米国市場におけるIaaSの切り替えを検討し始めた。青野社長は年内にIaaSの選定を終えて、開発に1~2年かけるという。だが、有力ユーザーが全社展開を急げば、もっと早い対応を要求されることがあるかもしれない。国内のグループウエア市場で、20年かけて地位を築いたサイボウズを、青野社長は「ほふく前進」と表現する。海外市場の開拓も、「1年、2年で勝負をかけるものではない。気が付いたら、世界シェア1位になった」と時間をかけるという。そんな戦略を密かに練る青野社長は、国内も汎用IaaSへの対応を図ることを否定しない。
日本のソフトベンダーで100億円を超えた公開企業は1社しかない。グローバル展開に成功したソフトベンダーは1社もない。中小ソフトベンダーを評価する力を持つユーザーは少ないし、育成する考えを持つ大手企業が少ないこともある。そうした状況下に、青野社長はサイボウズを「日本発グローバルソフトカンパニーになる」と意気込む。その日を楽しみにしている。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。