本特集「三国大洋のスクラップブック」では、前回、米国の製造業に関する疑問を提起した。
その疑問とは、中国などに流出した米国の雇用を単にブルーカラーの仕事として取り戻すことがどれほど現実的なのか、あるいは今後どれだけの効果を社会にもたらすのか、といったものだった。
この疑問を解決する課程で見つけた3つのエピソードを紹介する——と書いたのが前回の「メリット薄れる中国への生産委託、米企業は北米回帰へ」。この中では紙幅の都合で1つしか紹介できなかった。
今回は残りの2つのエピソードを紹介する。
「柔軟性が決め手に」省エネサーバメーカーのシーマイクロ
シーマイクロ(SeaMicro)といえば、低消費電力のサーバを開発するシリコンバレーのベンチャー企業で、チップメーカーのAMDが同社の買収を発表したことが先日ニュースになっていた。
そのシーマイクロ(本社カリフォルニア州サニーベール)が「隣町」サンタクララにあるNBSという受託生産メーカーを使って製品をつくっているという話が2月の半ばにWired.comに掲載されていた。そのタイトルからもわかるように、1月下旬のNYTimes報道をきっかけに巻き起こったアップルの問題——この「iエコノミーの光と影」シリーズの発端ともなった中国外注先工場での労働環境をめぐる問題をふまえた記事である(註1)。
この記事のなかには「何千万台もの製品をつくるアップルが、中国に工場を持つフォクスコンとの取引をやめ、カリフォルニアでiPadをつくるようになるとは考えられないが、しかしもっと製品生産量の少ない分野——たとえば産業用機器、医療機器、航空関連機器などでは、最終消費地に近いところで製造しようという動きが進んでいる」とするCharlie Barnhart & Associatesという専門調査会社関係者のコメントがある。
シーマイクロの幹部は「地元」での製品作りのメリットとして、柔軟性の高さを挙げている。柔軟性の高さ、つまり新しい技術を開発し、その技術を製品に組み込んで出荷するまでのスピードこそ、同社のようなベンチャー企業にとっては競争力の源泉になっているという考えだ。
そして、クルマで10分ほどの距離にあり、しかも長らくプロトタイプづくりを専門としてきたNBSであれば、何か設計の変更が生じてもすぐに製造ラインに反映させることが可能だという。シーマイクロの幹部はこうしたやり方を「リーン・エンジニアリング」(無駄のないエンジニアリング)と呼んでいる。
なお、NBSのような受託生産メーカーが、サンノゼを中心とした半径40マイルの範囲に少なくとも250社は存在しているという。また、一度はアジアへアウトソースされた(シーマイクロの例のような)「中規模の製造案件」の約3割が、ここ2年で北米に戻ってきているというデータも示されている。
「中国へのアウトソーシングを良しとする風潮は、企業に対して四半期ごとにコストの圧縮を求めつづけたウォールストリートからの圧力によって助長されたふしが多分にある。だが、いまでは米国メーカー(OEM)の考え方のなかにある程度の合理性が戻ってきており、中国への製造外注という解決策の魅力に陰りが出始めたいま、自社のサプライチェーンについて見直しを進めようといういうOEMが増えてきている」というCharlie Barnhart & Associates関係者の指摘は、ある変化の流れを示す兆候のひとつと考えられる。(註の終わりに次ページへのリンクがあります)