12月15日付の日本経済新聞夕刊、北海道大学の長谷川英祐准教授の研究が気になる。『働かない「働きアリ」がいる!?』と題する記事によれば、働きアリのくせに、その10%は働かないのだと言う。
働く働きアリだけを集めてみても、やっぱりそのうち10%は働かなくなってしまう。逆に働かないアリだけ集めると、今度は90%が働き始めて、結局働かないアリの比率は10%になるという。
10%が働かないと聞いて思い出すのが、下位10%を解雇する経営手法で知られた元GE会長Jack Welch氏である。長谷川准教授の説に基づけば、働かない10%を解雇しても、その残りのうちの10%がまた働かなくなってしまうので、解雇する意味はない。
つまり、Welch氏の経営手法は、必ずしもその効果を発揮していなかったことになる。どうやっても10%は働かないんだから、毎年10%解雇していたら割増退職金のコストが掛かるだけ損である
では、どうやってこの「10%が常に働かない」という問題を解決したらいいんだろう? 長谷川准教授によれば、「アリは一部の個体が常に働かなくなるようなシステムを、労働の制御機構として採用している(北海道大学ウェブサイトより引用)」のである。
しかし、これが何のためなのかは分かっていないのだという。ただ、アリという集団生活に長けた生物のDNAがそうさせるのだから、そこにはきっと生き残るためのヒントがあるに違いない。
そういえば、Googleには「20%ルール」という、勤務時間のうち20%を自分の好きな研究に割り当てていいという制度がある。アリの10%よりちょっと長いが、これは、通常業務とは別のことに時間を割くことが、組織全体の能力を高めている事例である。
しかし、誰もが10%を自分の好きなことに使うなら、アリの実験同様、常に10%は働いていないことになる。なるほど、これでアリ社会にもイノベーションが起こり、種の生存はより確実なものとなる訳だ。
とすれば、自分のパフォーマンス、そして組織のパフォーマンスを最大にするには、一日中働くのではなくて、10%は怠けて関係ないことをやるのが良いに違いない。Welch氏も、10%を解雇するのではなくて、全社員に一日の仕事時間のうち10%は怠けるよう指示を出せば、GEの業績は更に良くなっただろう。
人間、やっぱ週末だって仕事しないで怠けないといけないのである。原稿なんか書いている場合ではない。今日はここまで。釣りだ、釣り!
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。