(2)ツイートは「私的な会話」か、それとも「公的な発言」か?
Scottは、事前にツイート引用の可否を問い合わせてきたCBS Filmsに対し、「自分が仕事として書いた記事の中から一部を引用して広告に使うのはかまわない(すでに他の媒体で普通に行われていることなので)。だが、ツイートはあくまで個人的なものだから、それを使うのは勘弁してほしい」などと答えていたという。またCBS Films側が打診してきたツイートの部分引用についても、「それでは引用を新たにこしらえること(“manufacture a quote”)になってしまう」などとして、断りの返事を出していたという。
CBS Films側がScottのツイートを部分引用の形で使おうとしたのは、元のツイートの中に他の作品の名前が出ていたから――「みんなが『The Wolf of Wall Street』と『American Hustle』のどっちがアカデミー賞を取るか、といった話をしているが、自分は『Inside Llewyn Davis』のサントラをもう一度聴くことにする……」というもので、CBS Filmsでは「競争相手を批判するような広告を出してはいけない」とする米映画芸術科学アカデミーの規定に従うために、前半部分を外すことにしたという。
You all keep fighting about Wolf of Wall St. and Am Hustle. I'm gonna listen to the Llewyn Davis album again. Fare thee well, my honeys.
— a. o. scott (@aoscott) December 31, 2013
(もともとのツイート)
[The Wolf of Wall Street Official Trailer]
[American Hustle TRAILER 2 (2013)]
その後CBS Films側では、結果的にScottの回答を無視する形でツイートを部分引用した広告を制作、掲載することにした。またNYTimesの広告営業部門もこれを「問題なし」として紙面に載せた……。以上は各当事者から言い分を聞いて整理したNYTimesのPublic Editor、Margaret Sullivanの説明(註1)。この記事では、NYTimesの広告営業部門がScottに確認を取らなかったなど、同紙側で手続き上の不手際があったことも報告されている。
・When a (Partial) Tweet Becomes an Ad, What Are the Rules? - NYTimes
さらに、Sullivanの問い合わせに対して、CBS Filmsのプロデューサーは「ツイートを広告に引用したことはこれまでに何度もあった」「批評家の発言は、レビュー記事の中であろうとTwitter上のものであろうと違いはない」などと説明。また「映画批評家が自社の映画について発したツイートを、われわれは自由に使うことができる」「自分たちはどんな批評も自由に編集して使える」などと答えている。
一方、自分の知らないところでツイートを勝手に広告に引用されたA. O. Scott本人は、「ツイートが新聞の全面広告になるなんて、まったく奇妙な新しい局面」などと発言してもいた。
we have reached a strange new place in marketing when tweets become full-page print ads.
— a. o. scott (@aoscott) January 4, 2014
このあたりの見解の相違などは、あくまでも当事者間の問題ということになろうが、Twitterの存在感や影響力がさらに大きくなる中で、今後は一定のルール確立が求められるところかもしれない。