つまり、当事者にしてみれば「市販品には自分たちの仕様に合致するものがない」あるいは「戦略的にとても重要で、他者の手に委ねておくわけにはいかない」ものを内製化した結果が、その分野全体に予期せぬ大きな影響を及ぼした……そんな共通点がある例のこと。
また、Malikは言及していないものの、「必要なものが手に入らないなら、自分たちで作ろう」という点では、Tesla Motorsが先ごろ発表していた「Gigafactory」建設計画――バッテリの確保――にも相通じるところがあると思う。
このMalikの考えを「事業の当事者に向けたアドバイス」的な視点で読むと、それほど面白いところはないように思えもする。そう思える一番の理由は、あまりにも当然と感じられるからかもしれない。現実には(いろんな事情から)「作りたくても作れない」という場合が大半で、それができるのはごく一部の恵まれたプレーヤーだけという可能性なども思い浮かぶ。
一方、これを主に防御の面から捉えると、かなり厄介な事柄であることが感じられて、俄然面白みが増してくる。
AppleによるP.A. Semi買収とチップ設計の内製化にしても、Facebookによる独自仕様のハードウェア開発にしても、これまでいろんなところで報じられてきていることと思う(だからここでは詳細は省く)。
ただ、64ビットチップのモバイル端末搭載でApple(のA7プロセッサ)に先を越された形のQualcommにとってAppleは直接の競合関係にはない(あるいは「なかった」――少なくともP.A. Semi買収のあった2008年時点でそういう見通しを持てていた者がどれほどいたか)。FacebookとDellやHP、IBMとの関係も同じようなものだろう。
そういう捻れた関係を何とと呼ぶのが適切なのかはわからない――「非対称の競争関係(asymmetrical competition)」なんて言葉も思い浮かぶが、それでは何も伝わらないのと同じという気がしている――が、いずれにしても、そんな捻れた関係がいろんなところで生じ、当事者たちですら最初は意識していなかった類の「椅子取りゲーム」が進んでいる…。
そのことだけは常に頭の片隅に入れておくべきことと思える。つまり「Appleは別にQualcommやIntelなどのビジネスを奪おうと考えて、P.A. Semiを手に入れたわけではない」といったことをだ。
「予期せぬ競合相手の出現、あるいはその可能性を果たして予想できるのか」(言葉の上では明らかに矛盾している)、または「自分たちの間尺に合わない要求をしてきた顧客を競合相手にしないための何かいいやり方があるのか」などいろんな疑問が浮かんでくるが、生憎と答えのヒントになりそうなものはなかなか浮かんでこない……。
すぐに思いつくのは、たとえば「Appleの新製品(投入の噂)」といった話に「GoogleやSamsungとの競争状況が云々」などと条件反射的に書いてしまうような媒体の記事を読んでいても、たぶん役に立ちそうなことは何も見えてこないだろう、といったことくらいである。