連載第9回となった今回は、前回に引き続きInternet of Things(IoT)/Internet of Everything(IoE)にフォーカスを当てて論じていく。今回のテーマは製造業×ITだが、本題に入る前に「デジタルとは何か」を改めて考察していこう。”Back to Basic”である。
「アトムからビットへ」から20年
コンピュータ科学者で、マサチューセッツ工科大学メディアラボの創設者であるNicholas Negroponte氏は、およそ20年前に「アトムからビットへ」とくり返し説いていた。アトムは日本語で言えば原子であり、あらゆる物質を構成する元素の最小単位だ。一方、ビットはコンピュータの世界で使われる情報の最小単位である。つまり、あらゆる情報は物理的な制約を受けなくなる方向(つまり、デジタル)へシフトするというテーゼだった。そしてデジタル全盛の今日では、あらゆる情報がアトムからビットにシフトした。多くの書籍や雑誌がオンラインでデジタルデータとして流通しているし、国際的なレコード業界団体「IFPI」の発表によると、2014年にはついにデジタル楽曲配信の売り上げがCDを追い抜いてしまった。
ここで、物理的な制約から解放されているという観点でデジタルが持つ4つの原則を整理してみよう。
- 重さ”ゼロ”
- 形がない
- 劣化しない
- 拡張する
先ほどのレコード業界を例にすると、デジタル楽曲は「重さ」と「形」がないが故にさまざまな音楽プレーヤーに対応し、どれだけコピーしても劣化することがなく、オンライン店舗には「売り切れ」という概念が存在せず、ついにはSpotifyのようなサービスが登場して保存するストレージさえ必要なくなった(代わりにネットワーク環境は必要だが)。CDは「劣化しない」以外の項目で全て後塵を拝しており、あっという間に業界の主役の座を追われてしまったのだ。業界全体を巻き込んだ巨大なデジタルバリューシフトであったと言えよう。
そして、デジタルテクノロジの近年のトレンドとして「モバイル」「クラウド」「ソーシャル」「アナリティクス」などがあるが、全て上記のデジタル4原則の恩恵を多大に受けている。さらに、このようなデジタルな”モノやコト”が「つながる」ことで価値はどんどん増大していく。筆者はこのようなデジタルテクノロジの「開花」を図1に示す”デジタルフラワー”として表現した。そしてIoT/IoEの概念を得て、デジタルはさらに大輪の花を咲かせようとしているのだ。
Digital Flower(図1)