日本のIoT/IoEは製造業で開花する
筆者が所属するシスコシステムズは、IoEによる全世界の経済価値は、2013年から10年間で1440兆円と試算している。日本はそのうちの76兆1000億円を占めるという試算だが、さらにユースケース別に細かく見ると13兆9000億円の「スマートファクトリー」がトップに君臨している(図2)。ここ数カ月間にシスココンサルティングサービス(CCS)に寄せられたコンサルティング案件や相談の件数は両手の指を使っても足りないほどであり、筆者の肌感覚とも非常にマッチしている。では、なぜ今製造業でIoT/IoEなのだろうか。
日本のIoT経済価値を創出するユースケーストップ10(図2)
理由の1つして、今日本の製造業が全般的に「投資モード」に入っているということが言える。業界としても概ね好調であり、2020年の東京五輪に向けた動きも活発化している。5年後、10年後を見据えた投資先としてIoT/IoEというテーマは取り組み甲斐があるだろう。
また、モバイルやクラウドの進化により、デジタルテクノロジの導入ハードルが下がってきたことも1つの要因ではないかと筆者は考えている。特にプログラミングの知識がなくてもクラウド上でアプリを作成できるサービスが増えている(PaaS「kintone」「IQP」など)が、これらは日々改善を繰り返している日本の製造現場と非常に相性が良いだろう。製造現場のネットワークは企業ネットワークと独立して構築されていることが多く、製造部門の責任で独自に物事を進められることも促進材料の一つかもしれない(ただし、この場合は同時にシャドーITのリスクがある)。
そして最後の理由は、製造業者自身が自社の製造現場のデータや担当者の知見が持つ「価値」に気がつき始めたことである。より正確に表現するのならば、デジタル化されたデータや知見は、自社の強力な「コンテンツ」になり得るのではないかと思い始めたのである。これはIoT/IoEによる明確なバリューシフトである。物理的な制約から解放されたデジタルデータのうち最も価値を生むのは「コンテンツ」であり、大きな製造業者ほど優良なコンテンツホルダーとなる潜在能力は高いだろう。
このように、今日本の製造業界ではIoT/IoEの機運は高まっているが、Industrie 4.0などの話題に沸く海外に比べると一歩出遅れている感がある。現場のコンテンツ力では世界屈指であるはずの日本の製造業だが、残念ながらITやデジタルテクノロジの戦略的活用には長けていない。しかし、換言すれば、これさえ克服できれば大きくバリューシフトする余地が残されているということであり、ここに「開花」のポイントがあると言えよう。