Appleは過去10年にわたって前例のない成長を遂げてきた。その主な要因は「iPhone」と「iPad」だ。両デバイスとも当初は主に消費者をターゲットとしていたが、ビジネスにおける有用性はすぐに明らかになった。
Appleが2007年に放映したテレビCMでは、パイロットや他の業種の人々が、同社の新しいスマートフォンが電子メールへのアクセスやウェブの閲覧にどれだけ便利かを説明した。iPhoneがリリース当時いかに革新的だったかは、時に忘れてしまいがちだ。物理キーボードを搭載しない初めての携帯電話の1つであり(物理キーボードを手放したくなかった「BlackBerry」の熱狂的なファンを驚愕させた)、大失敗に終わるという懐疑的な見方も多かった。
今やiPhoneはAppleの売り上げの69%を占め、過去1年で2億台以上が販売されている。同社がエンタープライズ分野でかつてないほど力をつけているのは、iPhoneによるところが大きい。
オフィスでのiPadとiPhoneの利用
Appleは長年、主に消費者市場を重視する企業だった。同社のマーケティングの大半は、「iMac」や「iPod」を消費者に売り込むことを目的としていた。教育機関やグラフィックデザインショップに大量のMacを販売していたが、エンタープライズ向けに大規模な売り込みをかけているわけではなかった。
iPhoneとiPadによって、その状況が一変する。両デバイスは発売からわずか数年で、エンタープライズ分野に大々的に進出した。それは主に、企業が通信事業者経由で大量に購入したことと、従業員や企業幹部の要望によるものだ。Tech Pro Researchの2015年の調査では、回答者の84%が、Apple製品を採用した理由として、従業員のプラットフォーム選択の幅を広げること、あるいは従業員や幹部から要望があったことを挙げている。
こうしたモバイルデバイスによって、Appleは突如としてエンタープライズ分野の有力企業となった。これには、ある意味で裏口から入っていったようなところがある。消費者を主なターゲットとしつつ、iPhoneを仕事の電子メール用に使えることを付加価値として、急拡大するBYOD(私物デバイスの業務利用)のトレンドを活用し、エンタープライズ分野に入り込んでいったのだ。
Appleは以前から、社内に法人営業チームを抱えていたが、同社の販売戦略において特に大きな部分を占めることはなかった。iPhoneとiPadは、Appleからの直接購入も増加しているが、多くの企業はAT&TやVerizonなどの通信事業者経由で購入してきた。
Appleのエコシステムへの莫大な投資がもたらす利益
販売は別にして、Appleの最大の強みはそのエコシステムだ。同社は莫大な金額を投じて、「App Store」と「iTunes Store」、そしてクラウドストレージサービス「iCloud」を構築してきた。数年前にスタートしたiCloudでは現在、デバイスのデータをAppleのデータセンターにシームレスにバックアップできるようになっている。ある意味でApple版の「Microsoft Exchange」のようなものであり、あらゆるAppleデバイスで無料で利用することができる。
iCloudユーザーは、Apple IDでログインするだけで、連絡先やカレンダーを自分のすべてのデバイス(Mac、iPhone、iPad)でシームレスに同期できる(Apple IDは、Appleのデジタルストアでのアプリや音楽の購入にも使われる)。以前はシームレスに動作しないこともあったが、最近のiCloudはかなり順調に動作している。
たとえば、ExchangeサーバのためのITインフラストラクチャに投資したくない小規模企業や、BYODプログラムがサポートされていない大企業でも、iCloudを利用することで、企業のiPhoneユーザーはデータの保護が容易になる。