「ビジネスイノベーターになる」。独SAP日本法人の福田譲社長は、社長就任わずか1年でSAPの目指す道を示す。具体的には、顧客企業がビジネスにITを融合するデジタル化を支援すること。その実現に向けて、同社はすでに統合基幹業務システム(ERP)のソフトベンダーから変革を実現するプラットフォームベンダーへと変身を遂げたようだ。
デジタル化をけん引するSAPのHANA
それをけん引したのが、インメモリ技術を活用したビジネス分析アプライアンスHANAだ。福田社長は「ドラえもんのようなプラットフォーム」とHANAを表現する。発売当初のアナリティクスからトランスフォーメーションに、さらにイノベーションへと変化し、デジタル化のパワーを最大限に引き出すプラットフォームになったという。
デジタル化は業界ルールを変え、市場を広げる。消費者に新しい体験を提供した企業が市場シェアを瞬く間に獲得する。福田社長がその典型的な例として、車を所有していない世界最大のタクシー会社に成長した米Uber Technologiesを挙げる。SAPはそんな企業に、デジタルビジネスを立ち上げるために必要な業種・業務アプリケーションを提供する。
アップルもそんな1社だったという。SAPが提供する請求を始めとする小売りの仕組みを活用し、iTunesのサービスを開始した。こうした業種・業務アプリケーションは「100%満足できるものではないが、70%の機能を備えている」(福田社長)。そんなパッケージ商品群を使って、新しいビジネスが次々に創造されていくという。
例えば、スポーツウエアメーカーがランナーの脈拍などのデータをリアルタイムに収集、分析し、心筋梗塞の予知サービスを提供する。IT企業がDNAの解析で、1人1人の病に効く薬を見つけ出すサービスを提供する。誰にでも効く汎用的な薬ではなく、その人の症状に効果のある成分を多く含む薬を投与する。そんなサービスを提供する企業が心筋梗塞などの予防に貢献し、医療費を削減させる。
デジタル化はそんな消費者1人1人のニーズをつかんだ、「一握りの企業がバリューチェーンを握る」(福田社長)時代になる。効く薬を発見したIT企業が、医薬品会社を脅かす存在になるかもしれない。
実は、SAPの経営陣は約5年前に「ビジネスイノベーターを目指す」とし、HANAの開発に着手するとともに、クラウドへの投資を増やしたという。SaaSベンダーであるBtoB購買のアリバや人事管理のサクセスファクターズ、経費管理のコンカーなどを傘下に入れ、クラウドへのシフトも急速に進めた。
「2015年上期のクラウドビジネスは90%超増え、成長のモードに入った」(福田社長)。利益率も回復したという。「オンプレミスとクラウドでは必要なスキルが異なるので、上期に約3000人を整理する一方、約4000人を採用した」と、福田社長は本社の経営状況を説明する。