今、情報科学において重要な技術のうちの1つとして「人工知能」が多くの場で議論されている。過去2回分の記事では、そもそも、人工知能というものが一体何で、ビジネスや社会とどう関わっていくのかについて、コンピュータの歴史をひもとくことによって解説した。
さらに人工知能や「機械」と表現していたものを、それらの具体的な中身である「数理最適化」という方法を示した。これにより人間にのみ与えられた能力である「解くべき問題を設定」する能力と、「解決する手法を決める」能力を、どのような考え方をすれば実施できるのかについて説明した。
今回の記事では、人工知能がそのようにと呼ばれるゆえんでもある、「学習」という機能について掘り下げて解説する。学習は、人工知能を、囲碁や将棋において人間を勝るまで成長させた根本的な機能であり、人工知能が知能を成長させていくのに欠かせない能力でもある。
この「学習」という機能を掘り下げて理解することにより、今後、人工知能がどのような「成長」を遂げていくのか、より具体的に予想できるようになる。さらに、人工知能と人間との学習能力の違いについても理解できるようになり、「人間と機械との違い」についての理解が深まることが期待できる。
脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」とは何か
人工知能を「成長」させるアルゴリズムとして、人間の脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」が広く用いられており、その結果、ニューラルネットワークに対する機械学習の手法「深層学習」が達成でき、人工知能の学習が著しく向上したと言われている。囲碁や将棋で人間を打ち負かせるまで成長できたことや、画像を見せるだけで「猫」の概念を理解できるように成長したことは、このニューラルネットワークの研究が進んだことによる成果である。
このニューラルネットワークは、人間の脳の神経回路を模していることから、解説によっては「ニューラルネットワークによって人間の学習と同じことを機械ができるようになり、機械が自律的に成長するようになった(今後なっていくだろう)」といった論調も見受けられる。
しかしながら、第1回でも解説したように、人間の知能についての完全な理解がなされていない以上、人間と「同じ学習」を機械が担うことも、(少なくとも現状は)不可能である。だとすると、ニューラルネットワークというのは、そもそも何で、それによって何が実現できるようになったのだろうか。
まず、ニューラルネットワークについて説明する前に、人間の脳の神経細胞について、簡単に説明しておきたい。