CIOに対する誤解
CIOの設置率が低いこと自体もあまり良い状況とは言えませんが、実は問題はもっと根深いのではないでしょうか。日本の多くの経営者の認識、あるいは世間一般の解釈として、CIOとは情報システム関連部門を管掌する役員と位置づけています。これは、言葉の意味としては大きな間違いではないのですが、その役割や権限を的確に表しているとはいえません。ある程度の規模の企業であれば、部門を置いたら必ずその部門を管掌する役員が存在します。つまり、兼任CIOの多くは、単にIT部門も管轄部門の1つとして担当しているにすぎないということです。
兼務CIOの中には、情報システム部門などITに関連する部門に所属した経験がなく、技術についてはまったくわからないという人も珍しくありません。もちろん、CIOが技術に関する具体的な詳細を知る必要はありませんが、ITの重要性や難易度を理解し、方針を決定するだけの知識を持っていなければ存在意義はありません。
一方、伝統的な大企業の経営者(社長あるいはCEO)で、ITに詳しいという人も多くありません。
本来CIOは、経営者の一角としてITや情報戦略に関する意思決定を担う人であるはずで、必ずしもITに詳しくないCEOをサポートする役割を果たさなくてはなりません。今のような状況では、詳しくない人が詳しくない人に進言するようなものです。形だけのCIOを置いても風通しが悪くなるだけです。
AIやIoTが話題となり、デジタライゼーションに注目が集まる中、ITやデジタル技術を活用して、既存事業の変革や新規事業の創出を実現していくことを期待する経営者は確かに増えています。経営者や事業部門責任者がこのような問題意識を持った時、専門家としてアドバイスする人材が必要となります。CIOがいない、またはCIOはいるがITに関する知識がないという場合は、IT部門がその役割を担わなければなりません。
- 内山 悟志
- アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
- 大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。