展望2020年のIT企業

深層学習を専門とする日本発AIベンチャーの登場

田中克己

2017-08-23 07:30

 ディープラーニング(深層学習)ベースの人工知能(AI)プラットフォームとソリューションの開発に挑むAIベンチャーのABEJAが、パートナーとのエコシステム作りに力を注いでいる。米Googleなど有力IT企業がひしめくAIビジネの中で、顧客の課題解決や満足度向上を実現するサービスの開発に挑む仲間作りが欠かせないからだろう。2017年5月、画像処理半導体の米エヌビディアから出資を受けた同社は、海外市場の開拓も視野に入れる。

AIプラットフォームを展開するABEJA

 小学校5年にプログラミングを始めた1988年生まれの岡田陽介社長CEO(最高経営責任者)兼CTO(最高技術責任者)がディープラーニングに出会ったのは、米シリコンバレーに滞在した2010年頃だ。当時、最先端技術のレポートを書いたり、市場を調査したりするために、エンジニアらが集めるコミュニティやパーティーに参加し、技術動向などを聞いたりしていた。その1つにディープラーニングがあった。

 その革新性に期待した岡田社長は帰国後、ABEJAを一緒に立ち上げた緒方貴紀取締役と2012年2月頃からディープラーニングの技術検証を始めた。「できなかったことが、できるようになる」と確信した岡田社長は、ディープラーニングを専門に扱うABEJAを同年9月に設立する。「コンピュータを初めて売るような感覚で、ディープラーニングそのものが売れると思った」(岡田社長)が、誰も買ってくれなかった。数百社にディープラーニングを説明しても、「よく分からないものは使わない」と断られてしまったという。

 そこで、ディープラーニングを使ったソリューション商品(SaaS)を開発することにした。岡田社長のシリコンバレーでの経験から、「バーチャルデータで覇権を握るGoogleやFacebookなど大手と競合したら100%負ける」ので、彼らが手がけない領域を見つける。答えは、リアルデータを収集、解析する小売り向けSaaSになった。工場やオフィス、街中などからもこうしたIoTデータは生み出されるが、データ活用に積極的な小売業は技術力のあるベンチャーとの協業に前向きだったこともあった。「23歳の若造が製造工場に売り込みにいっても、相手にされない」(岡田社長)とも思ったのだろう。

 ディープラーニングに2014年頃から追い風が吹き始めた。新聞や雑誌に取り上げられてきたことで、「ディープラーニングを説明しても売れなかったのに、売れるようになった」(岡田社長)。蓄積した消費者の行動などのデータをAIで解析し、入店率や買入率の改善などに効果を発揮する小売業向けSaaSは、約300社、600店超のアパレルなどに導入される。

 力を付けた最近、調達した部品などの検品や製造装置の故障予知などを自動化、効率化する製造業向けSaaSの提供も始めた。そうした中で、ソリューション基盤となるAIプラットフォーム(PaaS)のオープン化に踏み切った。大きな転換期でもある。

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