先週末、グーグルのタブレット端末「Nexus 7」が米国市場で発売された。
大手量販店では初回入荷分が売り切れたと伝えられており、上々の滑り出しとなったようだ(註1)。前評判がかなり高かったことを考えると、ほぼ予想通りの結果といえるかもしれない(註2)。具体的な数字は10月の決算発表まで待たなくてはいけないが、グーグル幹部もまずはほっと一安心というところだろう。
グーグルにとってのNexus 7の重要性については、すでにさまざまなところで語られている通りだ。しかし、PCからモバイル端末へとコンピューターの主役が交代する流れ——いわゆる「ポストPC時代」への流れのなかで、Nexus 7の投入はグーグルにとって最も大切な検索事業という「城郭」を守りつつ、同時にアップルの生命線ともいうべきハードウェアの売上に直接ダメージを与える正面攻撃であることを考えると、スマートフォン向けのAndroid OS提供という「掘り割り」の拡張よりも、戦略的にはさらに積極的な意味合いを持つものと思われる。
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調査会社IHS iSuppliのレポートによると、Nexus 7の部材費(BOM)は市販価格199ドルの8GB版で150ドルちょっと、販管費を考えると収支はほぼトントンといえる。それに対して市販価格249ドルの16GB版はBOMが160ドルで40ドル程度の利益が見込めるという。ただし、「Google Play経由で販売しても赤字」というNew York Timesのデビッド・ポーグが記しているような別の話もある。
これから年末商戦期にかけて、もし16GB版がたくさん売れるようなことになると、グーグルの大転換——ハードウェアの販売でも稼げる総合的なプラットフォーム企業への変革という戦略上のピボットも一挙に進むという可能性も現実味を帯びてくる。
また、それ以前に「199ドルという低価格で、しかもOSもハードウェアも最新スペック」の製品という位置づけは、アマゾンやバーンズ&ノーブル、サムスンの7インチ版Galaxy Tabといった安価な競合製品にとって、より深刻な脅威でもある(註3)。
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特にユーザーとの接点をグーグルらに遮断されまいと、Kindle Fireを投入してユーザーアクセスの「補給路」をいったんは確保するかに見えたアマゾンにとって、Nexus 7は実に嫌な存在だろう。反対に、グーグルからみれば切れ味のいい「しっぺ返し」ともいえそうだ(註4)。
同時に、すでにマイクロソフトの影響下に入ったバーンズ&ノーブルのNook(電子書籍リーダーではなく、Androidベースのタブレットを指す)にも、Nexus 7は相当の脅威になると思われる(註5)。
Nexus 7はグーグルの「トモエ返し」
今のところ順調な滑り出しと言えるグーグルのNexus 7投入だが、逆にこれがうまくいかないようだと、中・長期的にはかなり厳しい状況になりかねない。(次ページ「アップルのグーグル外し」)
註2:前評判
しばしば「アップル応援団」といわれるAllThingsD(WSJ)のウォルト・モスバーグでさえ「Nexus 7は使って楽しい」と書いている。
Despite some drawbacks, I found it a pleasure to use.
The Nexus 7 even includes an artificial-intelligence feature, following in the path of Apple's much-touted Siri. It answers some spoken questions, like Siri does. But it also presents a screen, called Google Now, with information it considers relevant to you at your present location and time—like the weather, traffic conditions between home and work, your next calendar appointment, and information for flights you've been researching.
またThe Vergeのジョシュア・トポルスキーは、「Nexus 7は素晴らしいタブレット。単に200ドルの製品としては優秀、なのではない」と書いている。
"Google's Nexus 7 isn't just an excellent tablet for $200. It's an excellent tablet, period."
註3:深刻な脅威
But for now at least, the Nexus 7 seems to be aimed more at competing with the Kindle Fire. Like the Fire, it's being positioned mainly as a content-consumption device. Unlike Apple, Google is playing down the productivity and creativity aspects of the Nexus 7 and treating it, as Amazon does, mostly as an inexpensive hardware portal to the company's cloud-based offerings of music, video, books and magazines.
註4:グーグルのしっぺ返し
グーグルにとって、これまでも商品検索やクラウドコンピューティングといった分野で先行され、結構うるさい存在だったのがアマゾンだ。
これまでにもアマゾンは、こともあろうにAndroid OSをベースにして独自のシェル(UI)を付加し、さらに独自のAppstoreまで用意してかなり閉じた環境をつくろうとした上、自社開発のブラウザ「Amazon Silk」を経由させることでユーザーのウェブ閲覧履歴がグーグルに渡りにくいようにする、といった圧力をかけてきた。
註5:Nexus 7は相当の脅威になる
アマゾンのプライムサービスやアップルのiTunesに比べ、「Google Play」のコンテンツの品揃えが弱いという指摘もある。ただし、こうした点は「ニワトリとタマゴ」で、Nexus 7や今後出てくる可能性のあるグーグルのタブレットがたくさん売れれば、コンテンツ提供者側も無視できなくなり、問題は自然と解決されるはずだ。それでも、グーグルとハリウッドの過去の経緯などを考えれば注意が必要な点かもしれないが。