アイ・ティ・アール(ITR)は12月3日、「国内IT投資動向調査2015」の結果を発表した。国内ユーザー企業を対象に2001年から実施しているIT投資に対する意識調査で今年で14回め。
今回のポイントとして、IT予算は再び低成長になったこと、“攻め”よりも“守り”の投資傾向が見られたこと、IT部門自身が従来からの機能が縮小すると認識していること、成長分野はモバイルとネットワークであったことを挙げた。

ITR 代表取締役 プリンシパルアナリスト 内山悟志氏
今回から、IT投資の目的やIT部門の役割などを聞く新たな質問項目を設けた。その意図について、代表取締役でプリンシパルアナリストの内山悟志氏は「ITRの創業から今年で20年。当時はオープン化の波が来ていた時期だったが、20年経ち、今度はクラウドやモバイル、デジタルビジネスといった大きな波が来た。ITがどのくらい攻めに転じられるか、IT部門はこれから生き残っていけるのかが問われている」と説明した。
具体的に、IT投資の目的が「攻めの投資」であり「重要と考えているか」どうかや、IT部門の「現在の役割」と「3~5年後に担うべき役割」を質問することで“IT部門の現在とこれから”を探った。
調査結果の概要はシニアアナリストの舘野真人氏が(1)IT投資の方向性、(2)IT投資の目的と戦略性、(3)重視するキーワードと重点施策、(4)IT部門の役割と影響力、(5)製品/サービスの投資動向――という5つの観点から解説した。
IT投資の方向性としては、2013年の調査でリーマンショック前の水準を取り戻したものの、2014年度(2014年4月~2015年3月)のIT予算は、再び低成長になったという。具体的には、IT予算を「増額」と回答した企業は23.1%にとどまり、2013年度の31.7%を大きく下回った。

ITR シニアアナリスト 舘野真人氏
「減額」も前年度を下回り、「横ばい」が65%を占めた。「安定的に予算が確保できたものの、積極的に投資を行う企業が減り、模様眺めの色合いが濃い1年だった」(舘野氏)。2015年度の予想値も低く、再び低成長となることが想定されるという。
海外でのIT投資については、海外拠点を設置している企業の割合が30%を超え、準備・検討中の企業も含めれば50%を超えるなど、グローバル化が進んでいる。そうした企業ではIT予算の増加傾向が強く、IT市場全体をリードしていることがうかがえるという。
情報セキュリティ対策費用、災害対策費用、IT内部統制向け費用の割合も過去5年でいずれも最高となった。こうしたリスク対策費の拡大がIT予算の拡大につながった可能性もあるとした。

IT投資増減指数の経年変化(2001~2015年度予想、ITR提供)
2つめの目的と戦略性については、今回から追加したIT投資目的の重要度と“攻め”に対する認識度合いについて解説した。“攻め”に対する認識度を測るために、IT投資の目的として「業務効率向上・コスト削減」「ITインフラ整備・強化」「新規ビジネスモデル実現」「技術シーズ提案」「事業・業務改革」といった11項目を設定。それぞれについて「重要度」と「攻めの投資と認識しているか」を聞き、縦軸と横軸にプロットした。
その結果、重要度が高い項目はいずれも“守り”に位置付けられている項目である一方、攻めの投資と認識されているものは重要度が低かった。重要度が高く“攻め”が強く意識されている項目は1つもなかった。
「予算の確保や配分といった問題以前に、企業のIT戦略にかかわる当事者が投資案件によって生み出される価値を前向きにとらえていないようだ。“攻めの投資”と“守りの投資”に対する認識の差も大きい。自社のビジネスが好調という企業では、いずれの項目も重要かつ“攻め”と考えられおり、非常に不調とこたえた企業ではほとんどの項目を“守り”と認識しているうえ重要度も低かった。投資の目的や生み出す価値について意識改革が必要」(舘野氏)

IT投資目的のポジショニング(2014年度、ITR提供)