さらなるテクノロジのブレークスルーによって、シーケンス解析が大きく進歩しようとしている。ナノ細孔テクノロジもその1つだ。同テクノロジでは、ナノ細孔加工を施した薄膜にDNAの断片を塩基単位に少しずつ通過させていく。この薄膜の細孔を世界最小の針の穴だと考えてほしい。するとDNAは糸にあたる。細孔の一方の側には電極が配置されているため、DNAは細孔に向かって引かれていく。そして塩基が細孔を通過する際、イオンの流れを乱し、電界の微少かく乱が発生する。それを読み取ってDNAのシーケンス解析を行うのだ。また、ナノ細孔テクノロジを用いた解析手法で分かるのは4つの塩基だけではない。同手法では、塩基のメチル化が発生しているか、メチル基のヒドロキシル化が発生しているのかも分かる。こういった化学反応はいずれも人間の健康に大きな影響を与えると考えられている。例えば、過剰に発生したシトシンのメチル化は細胞のがん化に大きく関わっているとされている。
しかし、ナノ細孔によるシーケンス解析テクノロジはまだ初期の段階であり、どういった材質で薄膜を製造するかといった難問が数多く残されている。あるグループは、人体の細胞を包む細胞膜とよく似た脂質二重層という物質を好む一方、別のグループはグラフェンのような材質を好んで研究している。
ちなみに、脂質を使用した製品は、Oxford Nanopore Technologiesのものも含め、既に市場に登場している。なお、同社の製品はコンピュータのUSBポートに差し込むようになっている。
昨今における解析装置の小型化の波のおかげで、町医者でゲノム全体のシーケンス解析が行えるような日がやがて来るかもしれない。
将来に垂れ込める暗雲
2003年、ヒトゲノム計画によって人間の遺伝子の完全なシーケンスマップがもたらされて以来、研究者らはより細かいレベルで遺伝子の秘密を理解しようと取り組んできている。
人間のゲノムが明らかになった結果、研究者らはどの遺伝子シーケンスが特定の疾病を発症させる原因となるのかを知るために個人のゲノムを研究するようになった。こうした遺伝子情報が自由に使えるようになることで、研究者らは疾病をより効果的に治療したり、予防するための方法を見つけ出せるようになる。
遺伝子研究分野でもその他多くの研究分野と同様、自由に使えるコンピューティングパワーの増大に伴い、発見のペースが加速されている。
バージニア工科大学におけるコンピュータ科学の教授であり、コンピューティングツールを研究者や科学者に提供するSyNeRGy Laboratoryの責任者であるWu Feng氏によると、テクノロジは今日の科学分野における3つの柱のうちの1つだという。
研究所で利用されているStäubliのロボット
提供:Maggie Bartlett氏(米国立ヒトゲノム研究所)