海外コメンタリー

遺伝子検査のもたらす素晴らしくも恐ろしい未来(下)--99ドルで解析も、その先にあるもの - (page 7)

Jo Best (ZDNet UK) 翻訳校正: 村上雅章 野崎裕子

2015-08-11 06:30

23andMe、、、そして私?

 筆者は、Lane氏から23andMeの検査を受けてみたいかと尋ねられた。筆者が受けないだろうと答えると同氏は、「なぜ検査結果を知りたくないのですか」と問いかけてきた。筆者の最初の答えは、検査によって分かること、つまり自らの死に至る理由をあまりにも早く知ることへの懸念があるというものだった。

 しかし、そうした懸念はほどなく払拭された。健康という話になると、知識は本当に力となり得る。特定の疾病を発症するリスクが高いと分かっているのであれば、発症を遅らせたり、症状を緩和したり、発症リスクそのものを減らすために何らかの対応を取ったり、治療を開始することができるかもしれない。実際、Googleの共同創業者Sergey Brin氏は23andMeの検査を受け、パーキンソン病を発症するリスクが平均よりも高いと知らされた結果、この病気のリスクを下げると考えられている行動をとるようになった。つまり、コーヒーを多く飲み、エクササイズを欠かさないようになったのだった。

 23andMeの検査がもたらすであろう未知なるものへの恐れはなくなったが、筆者はそれでも納得できなかった。筆者としては、研究プロジェクトに対して匿名で自らのゲノムを提供する意思はあるが、私企業との共有については少なからず気持ちの悪さを感じている。

 今のところ、商業ベースのジェノタイピングに制約が課されているため、将来の健康や祖先に関する情報を仕入れるという目的では、家族の過去を聞いて回るのと同程度にしか役立たない。また、筆者の鼻が大叔母の鼻と同じ形をしているという、祖母の家の屋根裏で見つけた古い白黒写真が教えてくれたような事実は、23andMeは教えてくれないのだ。

 しかし、筆者が思いもよらなかったような秘密がゲノムの中に隠されているかもしれない。

 23andMeは「DNA Relatives」(DNAの近親者)と同社が呼ぶソーシャルネットワークのようなサービスを提供している。顧客がこのサービスを選択すると、23andMeは遺伝子構造がよく似た他のユーザーの存在を通知し、場合によっては仲介役を務めてもくれる。現在、このサービスは限られた地域でしか実施されていないため、多くは自らの知らない5親等か6親等の、つまり遠い親戚を見つけることになるが、関係が分からない場合もある。

 しかし、ごくまれにLane氏のようなストーリーが明かされる場合もある。伝えられるところによると、子どもの頃に養子に出されたニューヨーク在住の男性が、23andMeのソーシャルネットワークを通じて実の弟を見つけ、対面を果たしたという。その時まで、弟は養子に出された兄がいたという事実を知らなかったのだ。このような家族にとって、23andMeのサービスでどのようなことが分かるのかはまったく未知数なのだ。

 筆者はLane氏に対して、今回の検査で分かったような事実が明らかになるとあらかじめ分かっていても、検査を受けたかと尋ねてみた。

 Lane氏は、「もしも時間を巻き戻し、検査を受けるかどうかを決める機会をもう一度与えられたとしても、私は検査を受けるでしょう。検査を受けたことに後悔はありません。何人かの友人は『両親に怒りを覚えたのではないか』と尋ねてきましたが、なぜ怒るのか私には分かりません。父は私を育ててくれた人ですし、私が本当の息子ではないかもしれないと知りながらも、調べたいとも思わず、『検査を受けてはっきりさせよう』とすら考えなかったという点で、むしろ尊敬しています。家族という観点から見た場合、知ったことで何かが変わるわけではありません」と答えた。

 シーケンス解析サービスの普及とともに、Lane氏のような話も増えていくだろう。DNAはあなたと血がつながった人物を教えてくれるかもしれないが、あなたの家族が誰なのかを教えてくれるとは限らない。教えてくれるのはあなたという人間を作り出している遺伝子についてだけであり、その情報をどのように捉えるのかはあなた自身にかかっているのだ。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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