今年のIT業界で何がブレークするかを予測することは難しい。ましてや変化が急な中国での予測はなお難しい。それでもあえて言うなら、すべての業界にインターネットの恩恵をもたらす「互聯網+(インターネットプラス)」の政府号令のもと、インターネットと医療の融合による遠隔医療のビジネスが、各地で立ち上がるのではないかと思っている。
2016年11月の時点で中国のネット医療企業は40社を数え、うち30社が去年立ち上がったという。まだまだ各社手探りの状態とはいえ、ネット医療企業は指数関数的に増えている。
ネット医療というと、リモートで医者が診断用医療機器を動かすようなビジュアルを想像するかもしれないが、医療機器を活用しなくても十分キャパシティはある。中国政府系の国家計画生育委員会による、1年の医療現場での総診断数は76億回で、その半数が再診であるというデータがある。
しかもその多くが慢性病にかかわる再診であれば、ビデオチャット程度のやりとりだけで消化できる。再診の3分の2はネット医療で済ませられるという専門家の意見もあり、そう考えるとシンプルな診療とはいってもネット医療のキャパシティーは大きい。
中国政府としては、医療においても地域差を解決しようとネット医療を歓迎している。現在ネット医療関連の法律条例などはなく、性善説で先にサービスが先行しているが、目下ネット医療関連の条例づくりがされているという報道もある。
サービスが先でルールが後というのは、中国のネットサービスリリースの常で、例えば中国で現在普及している配車サービスにしても、フードデリバリーサービスにしても、電子マネー決済サービスについても、ECのルールにしても問題が露出してからルールを制定するきらいがある。
例えばチベット自治区にいようが雲南省にいようが、インターネットだけあれば上海や北京などの大都市の医療機関で診療を受けられるという意味では、ネット医療は格差を減らすサービスだ。また特に公立病院に行くと、診察を待つ人々でごった返しているが、この半数がネットで診察することで待機状態を解消できるサービスといえる。薬の処方箋もリモートで出してもらえる。
理想的ともいえるようなネット医療だが、その普及には保険不適用という大きな問題がひとつ立ちはだかる。市民は保険証のような保険カードがあり、自身の金と社会保険を合わせた額がデポジットされていて、支払いの際はカードリーダーを使って会計が処理するのだが、遠隔のネット医療では保険カードが使えないという問題が生じる。ネット医療を受診するなら、実際の負担額は倍にもなり、あまりメリットが感じられないのだ。だからといって立ち上がったばかりのネット医療のために保険カードの仕組みを変えるというわけにもいかず、ニワトリが先か卵が先か論になる。
さてネット医療で有名な企業では「雲医院」「微医」「烏鎮互聯網医院」などがある。クラウドの「雲」、微信や微博の「微」、中国発の世界ネット大会会場の「烏鎮(浙江省)」のあたりの漢字を使っているわけだ。烏鎮互聯網医院によると、年間の売上額は8億元(約135億円)で健康診断が6割を占めるという。有名といっても、街中でその名前を見ることはないし、広告はリアルでもネットでも見ることはないし、新聞やテレビニュースでも露出はまれだ。まだまだ知る人ぞ知るサービスといえる。
とはいえ口コミで、知る人ぞ知る海外医療ツアーが注目されつつあり、医療ツアーの行先として日本が最も人気というデータも出ている。日本に行かずして、日本の(中国の口コミで)著名な信頼できる医者から健康診断を受けるサービスがあれば、アンテナを立てている人々の間でひそかな注目を集めそうだ。