クラウドコンピューティングは2021年、ITで選ばれる主力のモデルとなりつつある。企業の多くは、従来のベンダーよりもXaaSプロバイダーを選び、デジタルトランスフォーメーション(DX)プロジェクトを加速させ、コロナ後の新たな働き方を模索しているからだ。
また、企業がますますマルチクラウドを採用するようになる中、IT予算は大手クラウド企業に流れ込むようになりつつある。Flexeraが発表した2021年のIT予算に関する調査レポートによれば、企業のIT予算は、「Amazon Web Services(AWS)」や「Microsoft Azure」とそのSaaS製品に流入しているという。また「Google Cloud Platform」も、ビッグデータやアナリティクスのワークロードに関しては関心を集めている。一方、IBMやDell Technologies、Hewlett Packard Enterprise(HPE)、VMwareなどのハイブリッドクラウドや従来型のデータセンタープロバイダーにも役割がある。
また、SalesforceやServiceNow、Adobeなどは、SAPやOracleと企業の予算や企業データのシェアを獲得しようと争っている。SalesforceとServiceNowは、事業再開を支援するサービススイートの立ち上げに成功し、大手プラットフォームとしての地位を固めた。
2021年の鍵となるテーマは以下のようなものだ。
- 新型コロナウイルスの流行やリモートワークとビデオ会議への移行が、クラウドへの移行を加速させている。企業は、ますますクラウドをDXの原動力だと考えるようになっていると同時に、事業の継続性を向上させる技術として見ている。自宅待機命令によってリモートで仕事をせざるを得なくなり、作業は主にクラウドインフラ上で行われるようになった。「Microsoft Teams」や「Google Meet」などのコラボレーションツールは、企業の広範なクラウドエコシステムの中の1つの要素になっている。Zoomはサブスクリプション収入を得ているが、同社のサービスはAWSやOracleなどのクラウドプロバイダー上で稼働している。
- マルチクラウドは、企業にとってはアピールポイントでもあり、野心的な目標でもある。企業はベンダーへのロックインを警戒しており、アプリケーションを抽象化して、クラウド間で移動できるようにしたがっている。マルチクラウドの考え方を売り込んでいるのは主にレガシーベンダーであり、それらのベンダーは複数のクラウドに接続させることが可能なプラットフォームを作っている。これらは多くの場合、「VMware」か「Red Hat」で実現されている。
- 主戦場の1つはデータの獲得だ。法人顧客があるクラウド上に置いているデータが多いほど、そのベンダーへの依存度は高まる。クラウドコンピューティングベンダーが、企業に対して、自社のプラットフォームにデータを置けば、アナリティクスからパーソナライズされた体験の実現まであらゆることが可能になると売り込んでいるのは周知の事実だ。
- 人工知能(AI)、アナリティクス、IoT、エッジコンピューティングがトップのクラウドサービスプロバイダーの差別化要因になるとみられる。また、サーバーレスやマネージドサービスも同様だ。
- どのクラウドベンダーも、他のクラウドを管理する管理レイヤーを提供する側になろうとしている。Google Cloud PlatformやAWSなどのパブリッククラウドベンダーは、さまざまなクラウドサービスを管理するための製品を提供している。DellやHPEなどの伝統的なエンタープライズベンダーも同様の試みを進めている。クラウド管理の「一元的な窓口」になったプラットフォームが有利になるだろう。
- 恐怖や不確実性、疑念(FUD)をあおる営業戦術もみられるかもしれない。ビッグスリーは複数の業界で相互に競っている。Google Cloudは個別の業界に製品を売り込むことを想定した役員を雇用し続けているほか、ハイブリッドクラウド製品「Anthos」に関する取り組みを強化し、AWSやAzureとの売上高の差を縮めようとしている。
- 業界別の営業合戦が起きている。クラウドプロバイダーは、バーティカルなサービスを構築して個別業界にアプローチしている。Gartnerが発表したクラウドプロバイダー市場のマジッククアドラントレポートでは、「ハイパースケールクラウドプロバイダーの間の機能の差は縮まりつつあるが、エンタープライズワークロードを奪い合う競争は、世界中の二次市場にまで及んでいる」と指摘している。実際、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudの財務状況はいずれも好調だ。