SAPの戦略
SAPのエンタープライズアプリに対する研究開発戦略は、Oracleのものに比べると買収に重きが置かれている。AribaやConcur Technologies、SuccessFactorsの買収は、クラウドネイティブな製品の取得によってSAPのアプリケーションの足回りを強化するという重要な意味があった。
また、これらの買収は金額的な面でも話題を集めた(買収額はConcurが84億ドル、Aribaが43億ドルだった)。
コンサルティング企業HarmedaのMax Dufour氏は「成長のための投資を過剰に行わないこと、そして業務買収で長期的な利益の確保を目的とすることがリスクなのだ」と述べている。
SAPはこれまで、Oracleほど手広くスタックを扱っておらず、ビジネスアプリを中心に据えてきている。そして、将来に目を向けたSAPのアプリケーション戦略の中核は、インメモリプラットフォームである「SAP HANA」、とりわけ「SAP S/4 HANA」というビジネススイートとなっている。
SAPの最高業務責任者(CBO)Quentin Clark氏は、「S/4 HANAは、SAPのインメモリデータベースであるSAP HANA上に構築されている。SAP HANAは、トランザクションデータと分析データを統合し、新たなシナリオに光を当て、リアルタイムビジネスを可能にしている」と語っている。
SAPはS/4 HANAで同社の中核を再構築している。Clark氏によると、SAPはHANAで可能になったアナリティクス機能を活用し、ハイパーコネクテッドな世界においてコンテキストを意識できるアプリケーションを提供することで、顧客の業務にアジリティをもたらそうとしているという。また、SAPが活用しているユーザーエクスペリエンス(UX)フレームワーク「SAP Fiori」は、ユーザーファーストを実現するアプリの構築を支援するものであり、モバイル機器にも対応している。
SAPとOracleはいずれも、顧客がクラウドへの移行を徐々に進めている状況を認識しながらも、オンプレミス製品のアップデートとその顧客サポートを続けている。しかし、徐々に移行を進めるという顧客のアプローチは、SAPの戦略においてより大きな比重を占めている。
SAPは同社のアプリケーションをクラウド向けに再構築するという作業に着手しているが、今のところそのアプローチはクラウドとオンプレミスが混じり合ったハイブリッドなものとなっている。このため、S/4 HANAのアプリケーションはオンプレミス上でもクラウド上でも利用できる。つまり、SAPは顧客のクラウドへの移行をより緩やかにしようとしているとも言えるだろう。Hamerman氏は、すべてのアプリをまとめてクラウドに移行するという形態ではなく、必要に応じて適切なモジュールを移行していける形態になるはずだと述べている。
Dover氏によると、SAPが現在ハイブリッドアプローチで注力しているのは、顧客による選択だという。
収益という観点から見た場合、SAPは2015年にクラウド分野で20億ユーロ以上という結構な収益を得ているようだ。しかしこれは単に、戦略的買収の結果でしかないのかもしれない。
Dover氏は「SAPがクラウド分野で大きな売上高を達成したように見えるのは、同社がConcurを買収し、Aribaを買収し、SuccessFactorsを買収したためだ」と述べ、「同社におけるクラウド分野の売上高は大半が買収によるものだ」と続けた。