ベトナムでビジネスをする

ベトナムオフショア開発の行く末は明るいか、暗いか - (page 3)

古川浩規(インフォクラスター)

2014-01-10 08:31

ソフトウェア産業の課題

 ベトナムの法定最低賃金は毎年のように大きく上昇するため、日系製造業にとって頭の痛い問題です。しかし、ベトナム政府がIT人材養成に力を入れてプログラマーの数が増えてきているためか、IT業界では製造業ほどの賃金上昇圧力にはさらされていません。それでも、プロジェクトの規模が大きくなるにつれて必要となるチームリーダークラスのエンジニアが不足していることや、優秀なエンジニアの定着率が低いことが大きな課題となっています。ベトナムのIT産業には、高い給与や待遇を求めてのジョブホッピングが珍しくなく、離職率が年に20%にもなることも珍しくないのです。

 そのため、自社内でじっくり人材育成をするという戦略にも高いリスクが存在します。確かに、ベトナムのIT企業も、品質管理システムの国際標準規格「ISO 9000」シリーズや能力成熟度モデル統合(Capability Maturity Model Integration:CMMI)によって自社についての客観的な証明を行うようになってきました。しかし、このような人材問題を内包した労働市場を抱えた上で取得した認証は、参考にはなるものの、現在のマネジメント能力を必ずしも評価しているものではないことに注意する必要があります。

 また、ベトナムのオフショアは、ライバルの「漢字への親和性が非常に高く実績もある中国へのオフショア」や「英語圏であるインドへのオフショア」と比較した際に、「日本語への対応は、ブリッジSEや通訳、翻訳、コミュニケーターの質次第」といった傾向が強く、「日本と同様に、エンジニアは一般的に英語でのコミュニケーションが苦手」という状況です。

 また「低価格の割には品質が良い」というベトナムでのオフショア開発のメリットは、ベトナムの工業化に伴うGDP拡大や物価上昇、開発規模の大規模化による統制不十分により、次第になくなってしまう恐れもあります。ベトナム国内の大学において、「日本語のできる技術者養成」といった新しい取り組みがなされていますが、まだ一般的な取り組みではありません。

 「コストが上昇すればベトナムには魅力がなく、他の国に移るだけ」と言い切る経営者も存在する中、「不足する優秀な中間管理職層の育成」や「より効果的、効率的なプロジェクトマネジメントの実施」は、ベトナムのオフショアの課題となっています。中国やインド以上のベトナムの魅力をより一層明確に打ち出していかなければ、英語が通じるフィリピンや、コスト競争力の高いミャンマーに飲み込まれてしまう危険性も十分にあります。親日で若年層の多いベトナムには多くの魅力があるのは確かです。しかし、オフショアを受注する側としてやるべきことが、まだまだあるように思います。

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古川 浩規
インフォクラスター
内閣府及び文部科学省で科学技術行政等に従事したのち、平成20年に株式会社インフォクラスター、平成22年にJapan Computer Software Co. Ltd.(ベトナム・ダナン市)を設立。情報セキュリティコンサルテーション、業務系システム構築、オフショア開発を手掛けるほか、日系企業のベトナム進出に際して情報システム構築や情報セキュリティ教育等を行っている。資格等:国立大学法人 電気通信大学 非常勤講師、日本セキュリティ・マネジメント学会 正会員、情報セキュリティアドミニストレータ、財団法人 日本・ベトナム文化交流協会 理事

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