コロナ禍でデジタル変革が加速する中、2021年にはクラウドコンピューティングが企業のITシステムで一層重視されるようになっている。2021年版の本記事では、2020年の記事をアップデートし、そのような状況を反映したクラウドプロバイダー各社の動向を解説する。「AWS、マイクロソフト、グーグル--主要クラウド動向2021年版(1)」「IBM、デル、HPEとハイブリッド/マルチクラウド--主要クラウド動向2021年版(2)」に続き、「SaaS市場とセールスフォース、オラクル、SAPなど--主要クラウド動向2021年版(3)」をお届けする。
SaaS
SaaSはクラウド市場で最大の売上高を誇ると見込まれている。Gartnerの予測によると、2021年における売上高はIaaSが640億ドル(約7兆円)であるのに対して、SaaSは1210億ドル(約13兆円)になるという。
大手企業で現実となっている状況をいくつか挙げておきたい。まず、Salesforce製品が使用されている可能性が高い。そして、OracleやSAPの製品も使用されているだろう。これらの他に、WorkdayやAdobeの製品も含まれているかもしれない。以下では、これらの企業とその製品を採り上げる。また、ここまでで採り上げた企業のなかにもSaaSベンダーが含まれている点にも言及しておく必要があるだろう。Microsoftの「Dynamics」と「Office」は、サービスとして提供される場合が多いソフトウェア製品だ。ソフトウェアプロバイダーの選択肢は、かつてないほど多様になっている。
以下では大手のクラウドソフトウェアベンダーに目を向ける。
Salesforce
力強さを増している大手SaaSプロバイダー
提供:Getty Images/iStockphoto
Salesforceの目標は、各企業の顧客データという世界で中心的な地位を占めることだ。
Salesforceが目指すところは明快だ。同社は、顧客がそのデータを活用してパーソナライズされたエクスペリエンスを提供できるようにするとともに、自社のクラウド製品を販売したいと考えているほか、「Salesforce Customer 360」という取り組みをIT世界の中心に据えたいと望んでいる。同社は2020年に「Work.com」により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのさなかにも、企業の従業員が安心してオフィスに戻って作業できるよう支援するスイートでそのリーチを拡大した。
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Salesforceの最近の動きは、危機に際しても投資を絶やさないという同社のアプローチを浮き彫りにしている。またSalesforceは2020年、Slackの買収を発表し、自社のさまざまなクラウドを接続すると発表した。さらに、オンラインで開催した「Dreamforce to You 2020」カンファレンスでは、2021年の構想について概説した。
Salesforceは「Dreamforce 2019」で、2024会計年度に向けて売上高を倍増させる計画の概要を発表した。そして同社は、顧客データに関係するエンタープライズスタック全体を作り上げるために買収や開発を進めてきている。アナリティクスを手がけるTableau Softwareの買収は、同社が広範なフットプリントを有しており、Salesforceに対して市場へのリーチを広げる手段を提供するという点で将来性を感じさせるものとなっている。
SalesforceのCustomer 360プラットフォームによって、同社のSaaSポートフォリオ全体を企業に購入してもらえるようなかたちでクラウド製品すべてをまとめ上げられるかどうかは今のところ明らかではない。同社が2019年にアナリストらとのミーティングで述べたところによると、顧客の上位25社のなかに、同社のクラウド製品を5つ利用している企業が1社あり、6つ利用している企業はなく、3つか4つを利用している企業が数社あるという。また、Slackの買収によって顧客の増加とリーチの拡大が見込まれている。
Salesforceが2024会計年度に350億ドル(約3兆9000億円)という売上高を達成するには、そのクラウド製品を上位顧客にもっと採用してもらう必要がある。
同社の製品ラインアップは現在のところ、インテグレーションやコマース、アナリティクス、マーケティング、サービス、プラットフォーム、セールス向けのクラウドなどで構成されている。サービスクラウドやセールスクラウドが最も成熟している一方で、他のクラウドも急速に成長している。Salesforceの「Einstein」は、同社のクラウドの追加購入につながる人工知能(AI)機能の一例だ。